【閑話休題】地方移住論とインバウンドに共通する無責任さとは~『教育格差』(ちくま親書)感想~

みなさん、こんにちは!

 

『教育格差』(ちくま親書)松岡亮二 著 を最近夢中で読んでいます。
いたずらに格差を大きくみせることもなくデータを淡々とならべています。

 

 


親の大卒割合と通塾率,地方による習い事の数の差など,子供の教育を考える親であれば当然目をとめてしまうテーマが並び,厚い本ですがすらすらと読み進められます。

 

田舎の出身なので,都会の常識に自分の頭がついていっていなかったなと思い知らされる部分が多いです。

 


三大都市圏ほど,通塾率,習い事への参加率が高いというデータがでてきます。
私が育った地域では,塾はあくまで学校の勉強について行けないときに補助的にいくもので,自力で勉強できる週間がある方がよりよいという認識がありました。

また,習い事についても,みんな趣味でやっているもの位の認識しかありませんでした。

 

 

ただ,社会教育学の面で見ると,塾を利用できる子供は,学校以外のサポート機関の利用機会を有するということで,経済的事情から塾を利用できない子より有利な立場となるそうです。
また,習い事についても,大人から指示を受けて行動をする訓練となり,学校教育にもなじみやすく,また,大人とコミュニケーションする機会が多くなるため,こちらも習い事がに通えると言うことが有利な立場になりうるとのこと。

 

さらに,同書では,三大都市圏と非三大都市圏の比較から,教育の地方格差も克明に示しています。


さすがにこのデータをみると,県庁所在地の県庁に勤務できるのであれば,田舎に住まずに県庁所在で子供を育てた方がいい気になってきます。

 

 

ここで,ふと思ったのは,昨今のコロナを受けてよく聞くようになった『地方移住ブーム』についてです。

私の県の市町村でも,ここぞとばかりにどこも声高に地方移住を唱えていますが,メリットばかりでデメリットについては全く伏せられていないでしょうか。

 

 

実際に県内のある市の移住WEBページを見てみると,「子育て」のページは各種助成などが大都市より充実し,たしかに幼児期ののびのび子育てには向いているようです。

しかし,「教育」のページになると,「○○教育推進都市宣言をしている」といったお題目だけがならべられ,都市部と同様の教育水準を維持できるような情報は見当たりません。

 

 

今後ITの導入などで教育の質が全国均一化していけば地方の教育デメリットはなくなっていくというのが政府の論法かもしれません。

一方で,『教育格差』では,両親大卒の世帯が地域に占める割合によって,どこまでの教育を求めるのが当たり前かという地域性がつくられていて,そういった指標から学力の地域格差が確認されるということも言われています。

 

地域に住んでいる「人」が地域全体の教育環境と関係があることを考えると,デジタル化により見かけ上の均等なチャンスが与えられたからと言って,教育の地域間格差がすぐさまなくなっていくものではないと思います。

 

 

こうした問題を考えると,自治体の側は移住者を増やしたいのは分かりますが,都会暮らしの方が本当に移住して安心な環境が整備されている訳でもないのに理想郷のようなイメージをつくってPRばかりしているのは少し無責任にも思えます。

 

どちらかといえば,必死な自治体側より,この流れに乗って『地方移住』をはやし立てるコンサル,不動産業者,メディア等が移住者のその後のことなどに何の責任も持たず,いい気なものだなと思えます。

 

自治体の話に戻ると,万全ではないものを整備する前にひたすらPRばかりしてしまうというのはインバウンドに似ているなと思います。

 


東京,大阪,京都,北海道などの既に外国人からみて魅力的な観光地がどんどんPRして世界の観光地と戦っていこうというのはわかります。

一方で,たいした観光スポットもない県がまず外国人に魅力的に映る観光地があるのか,または受入体制があるのかといった検討もなしに,とにかく今ある観光地は知られていないだけだからという論理のもと,ひたすらPRを繰り返すのは順番を間違えています。

 


まったく空っぽのものをきれいな写真や動画で魅力的な観光地のように装って売りつけているようなもので,だましているような気さえします。

 

移住促進にせよ,インバウンドにせよ,成功する自治体は自分の都合でPRばかりするのではなく,冷静に地域の状況を分析し,顧客目線で考えることができる自治体なのだと思います。

 


その際に今回の教育のような不利な条件がある場合は,うやむやにするのではなく,子育て世代は誘致対象からはずして単身者を狙うなど,あくまで冷静な戦略が必要になるのかもしれません。

 

それでは、スーパー公務員によろしく!