インバウンドの罠 田舎に来てくれる海外富裕層という幻想

みなさん、こんにちは。

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地方でのインバウンド事業では,「田舎に来てくれる海外富裕層がいる」ということが1つの事業実施理由になっているようですが,本当にそうでしょうか。


インバウンド事業をやっていると,次の様なことをよく聞かされます。

「大量に団体客を連れてくればいいという量だけのインバウンドの時代は終わりました。
これからは質の時代になります。
アジアから物見遊山の団体旅行客相手であればどうしても東京・大阪といった有名な観光地が有利になります。

でも,今後は2度目,3度目訪日の,旅行者を狙っていくべきです。
特に,欧米からの旅行者は超富裕層です。

これらの欧米の方々はバカンスがあって,長期滞在する旅行の仕方をします。
有名な観光地は飽きてしまった人たちなので,地方での体験を求めています。
地方のインバウンドはこれからなんですよ。」

地方ではこうした甘言を頼りに,「長期滞在する富裕層」に向けて必死にデジタル広告を出したり,商品造成をするといった自治体も多いのではないでしょうか。


確かに,日本とは異なり,休暇が長い国もあるため,気に入った宿に長期滞在する外国人の方もおり,そうした方々にも対応できる価格設定が高い宿が日本にはまだまだ少ないというのはその通りかと思います。

ちょっと余談になりますが,海外のホテルに泊まると,有料サービスが驚くほどたくさんあります。このような状態が富裕層のニーズにも対応しているという状態です。

石ノ森章太郎先生の「HOTEL」でよく見かける話のパターンは,お客様のどんな要望でも,ホテルがなんとか提供するというものです

その一方で,なんでもかんでも心遣いでやってあげるのがサービスでは無く,サービスしたらその対価をもらうのが本当のホテルのサービスであるという話も出てきます。
自分で釣ってきた魚をただでさばくようレストランで要求するなど,「サービス」でホテルがなんでもやってくれるものだと考えている常連の建設会社の社長に対し,ホテルマネージャーが「もらった対価に対してサービスするのがホテルの仕事」と,詳細な請求書を突きつける話です。

 

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ホテルは客からお金をもらった分しかサービスをしない。
逆に考えれば,客がお金を払ってサービスを受けたいのであれば,お金を提示されてもそれに応じるサービスを提供できないホテルは,せっかくのビジネスチャンスを失っているともいえるでしょう。


さて,長期滞在する外国人対象としたマーケティングも「あり」ではあるのでしょう。
しかし,予算を使ってまでこの「マーケティング」を実施して効果のある自治体は全国にどれほどあるでしょうか。

これに限ったことではありませんが,自治体がマーケティングのまねごとをするとろくなことにはならないように思います。

自治体はなにか思いつきでマーケティングのまねごとを行っても全くリスクがありません。
「長期滞在する外国人のインバウンド需要」
という市場が確かにあるとしても,それが自らの自治体にとって有効であるかどうか,分析して事業をはじめるということはまずありません。
特に考えることもなく,コンサルやインバウンド関連の雑誌などで騒がれている甘い話を信じて事業化してしまいます。


ここで,「どうなるか分からないから小さい事業から始めてみよう」という発想があれば,かなり健全な方です。
しかし,実際には,何の見込みが無くても「予算があるから」「国の交付金が入っているから」という理由で,はじめから数千万円の事業でスタートしてしまいます。


民間企業では,何の見込みも無いまま,プロジェクトに数千万円がつぎ込まれるということはありえないでしょう。
イノベーションを行うための研究開発を行う余裕のある景気のいい民間企業なら別かもしれませんが,自治体の財政はそのような状況にありません。

「そういう計画だから」ということで,ただただ愚直に事業実施してみるのは,どちらかというと計画経済に似ているかもしれません。

以上のように,「やってみよう」という簡単なイメージ,思いつきで数千万の事業をつくってしまえるのが地方創生やインバウンドのいわゆる「前向きな」事業の問題点です。
 

 これからは「民間企業のようなマーケティングの考え方をもったスーパー公務員が必要だ」というような話がよく言われますが,「長期滞在する富裕層向けのインバウンド」などに目を付けたくらいでマーケティングをやった気になっている中途半端な先進意識が無駄な事業を量産してしまうと危惧します。

 

それでは、スーパー公務員によろしく!